* 合同合宿DEバトル! *










「くぁ〜!気持ち良い〜!!」


菊丸の声に、他のレギュラーもゾロゾロとバスを降りてきた。


「やっぱ合宿って、普通の練習より楽しみだよにゃー」

「英二、はしゃいで怪我なんかするなよ?」

「ぶ〜、そんなのする訳ないじゃん!」


大石の尤もな意見に、菊丸は頬を膨らませた。

青学レギュラーが居る此処、軽井沢は合宿に利用している常連地なのである。

休みの日も練習を惜しまない『テニス馬鹿』な男達にとって、何面にも広がるコートは魅力的であった。

そして、その合宿参加が初めてのリョーマは、少し期待した面持ちでバスを降りてきた。


「リョーマ君、荷物重くない?」

「これぐらい平気」


少し冷たく返した台詞は、決して不二の気遣いが嫌だった訳ではなく、目の前の自然に興奮していたからであった。

それを不二も心得ているのか、にっこりと微笑むだけだった。


「あ〜…気持ち悪ぃ…。すっかり酔っちまった…」

「……………」


気分を悪くしているのは桃城、海堂。

此処に来るまでに色々とあったのだろう。二人共ボロボロになっていた。


「は〜…。空気が美味しい!」


来て良かった!と可愛らしい笑顔で叫ぶリョーマに、レギュラー陣興奮しまくり。


「お前達、バラバラに移動するんじゃないよ!」

「レギュラーの自覚を持て!早く集合するんだ!!」


手塚と竜崎の言葉に、皆が一箇所に集まった。

と、その時…


ブロロロロロロ…


停車した、一台のマイクロバス。バスには『Hyoutei tennis club』の文字がハッキリとあった。


「「「「「ひょ、氷帝〜〜?!!」」」」」

「あぁ、お前等には知らせてなかったか?今回は氷帝を含め、不動峰、聖ルドルフ、山吹とも合同で合宿をする事になった」

「そんなの聞いてないっすよ!!」


抗議の声を挙げる桃城を余所に、バスから氷帝の帝王が顔を出した。


「よぉ、久しぶりだな」

((((よくそんな台詞が…))))


何かと口実を付けて、リョーマに会いに来ていた跡部とは、全然久しぶりじゃない。

その跡部の視線はと言うと、しっかりとリョーマに注がれていた。

それに逸早く気付いた不二は、リョーマを自分の背の後ろに隠すのだった。


「ほ〜んと久しぶりだね、跡部。昨日会ったばかりだっけ?」


たっぷりの皮肉を込めて言う不二。

しかし、そんなものは跡部に通用しなかった。


「まぁな。一日でもリョーマに逢えないと、気が気でなくなる」

「跡部、その台詞はリョーマの恋人になってから言うんやな」


跡部に続くように出てきた忍足。その眼もリョーマを探していた。


「侑士!抜け駆けはなしだからな!!」


腕の紐を解きながら言う向日。少しの間、足止めされていたらしい。

この辺は抜け駆けと言わない辺りが、彼らのルーズさを物語っているのかもしれない。


「ねむぃ〜…。忍足、首に紐を巻くなんて酷い〜。もう少しで窒息する所だった」

「あ、ジロー…起きてもうたんか」


洒落にならない言葉を吐く芥川慈郎。忍足の返答も冗談では済まされない内容だ。

ジローの後ろから、同じ『足止め』を食らったであろう宍戸、鳳、樺地、そして何故か日吉まで居た。


「ねぇ…何でアンタまで居るの?」


やっと不二から解放されたリョーマは、不思議そうに訊いた。

万年準レギュの日吉にはなかなか残酷な質問に、跡部が代わりに答えるのだった。


「日吉は時期部長候補だからな。合宿参加は義務なんだよ」

「ふ〜ん…」


さして興味も無さそうにするリョーマ。いや、多少の興味はあるが、他人には判断出来ない微妙な気持ちなのだ。

そんなリョーマの言葉に、牙を剥き出すような日吉。

怒り…というよりも、小学生の男子生徒が好きな女子生徒を苛めてしまうというアレによく似ていた。


「で、他の学校も来るんでしょ?」

「あぁ、もうすぐ着くじゃろ」


竜崎の言葉とタイミング良く、残りの三校のバスが到着した。


「リョーマ君vv逢いたかったよ!」


バスから飛び降りると同時に、リョーマに抱きつく千石。

その腕を必死で解こうとする壇。


「あ〜!千石、おチビに何するんだよ!!!」

「千石先輩!越前君を放すです〜!!」


ちょっとばかり混乱とも言える状況。青学レギュラーが全員でリョーマから千石を離そうしているのだから。


「おい…てめぇ、いい加減にしろよ」


千石の肩を掴むように現れた男。

それは…


「何だよ亜久津〜。邪魔すんなって」

「…亜久津?」


千石の腕に身体を固定されているリョーマが、上を見上げて首を傾げた。

亜久津と言えば、自分との試合がきっかけでテニスを辞めたはず…。

その視線に気付いたのか、亜久津は顔を紅く染めた。


「あ〜…その、ジジィが五月蝿ぇから…」

「亜久津先輩ってば嘘吐きだ〜ん!テニス部がリョーマ君と同じ所へ行くって聞いて、先生に頼んだのに!」

「この…っ!馬鹿太一!!」


ポカリと太一の頭を殴ると、照れ臭そうに頭を掻いていた。

リョーマといえば、いまだその意味が分からずに困惑気味であったが…。


「取り敢えず、その手を退けろ。千石」

「やだな〜、手塚君までリョーマ君大好きなんだ?ライバルが多いな〜」

((((それはコッチの台詞だ!!!))))


青学レギュラーは気が気じゃない。

同じチームメイトだけでも沢山ライバルが居るのに…まだあと二校は増えてしまうのだから。

何を手間取っていたのか分からないが、残りの二台からも人が降りてきた。


「んふ、久しぶりに会う顔触れですねぇ。…出来れば越前君以外とは会いたくなかったですが…」

「何だ、随分賑やかだな。このメンバーで合宿とは大変そうだな」


本音を吐く観月と、爽やかに感想を述べる橘。この二人も曲者に違いはない。


「あ〜、人数が増えてきたねぇ…。仕方ない、一度ロッジに移動するよ」


竜崎の言葉に、青学レギュラーはハッとした。そう、寝泊りするのはロッジなのだ。

他のグループと壁伝いではないから、抜け駆けも出来る!

少し元気を取り戻した男達は、リョーマを守るようにしてロッジへと移動した。



















































「監督、異議があります」

「何だ、跡部」


跡部はいかにも不満そうな顔で挙手をした。


「折角、各校の生徒が揃っているんです。合同の部屋割りにしましょう」


そう、最初発表された部屋割りは、同じ学校の生徒同士であった。

それでは納得出来ない他校生徒を代表して、跡部が発言した。


「…そうだな。交流の場を折角設けているのだから、そうした方が良いかもな…」


どう思います?と竜崎に意見を求める榊。

青学レギュラーは「断れー!」と内心で祈っていた。


「そうじゃな、折角だしそうするか」

((((マジかよ〜!?))))


やはり納得出来ないのは青学メンバー。

しかしもう決定したらしく、各校の先生達によって部屋割りが直された。


「これ…マジ…?」


弱々しく声を吐き出す菊丸に、他の生徒も溜め息を吐いたりした。


1 忍足、不二(周助)、観月、南

2 跡部、手塚、橘、赤澤

3 向日、千石、柳沢、神尾

4 宍戸、鳳、木更津、乾

5 不二(裕太)、伊武、樺地、室町

6 芥川、大石、海堂、桃城

7 亜久津、壇、日吉、菊丸


明らかに意図的に組み合わされた部屋が多い。特に1、2、6辺りは…。

そしてハッと気付く。

…何処にも、リョーマが居ないじゃないか。


「竜崎先生、これはどういう事ですか?越前は…?」


手塚が意を決して尋ねると、竜崎はにま〜と笑った。


「お前さん達が相部屋したいのは、どうせ越前だろう?なら、争わないように越前だけは毎日違う部屋に移動したらどうだ?」


お見通し!と言わんばかりの台詞に、ほとんどの生徒が喜んだ。

一夜だけでも、必ずリョーマと同じ部屋になれるのだ。それ程嬉しい事はない。


「え、俺だけ移動…?面倒…」

「ぶつぶつ言わないんだよ!お前さんがそうしてくれないと、この男共は争いが絶えないだろうからね」


ふぅ…と溜め息を吐いてみせた竜崎は、さて…と連中を見渡した。


「このメンバーで一週間を過ごしてもらうよ。お前達が越前を取り合うのは構わんが、練習に気合の入らない奴は罰が待ってるからね!」

「「「「「「「はい!!」」」」」」」」

「では、皆さん解散しましょう。各自部屋に荷物を置いたら、着替えて外に集まって下さい。昼頃まで練習をします」


「あぁ、そうそう…」と伴田は付け足した。


「今日の昼食当番は、芥川慈郎君、不二裕太君、伊武深司君…それと、越前君は毎回料理当番になってますから」


相変わらずにまにまとした笑い方。リョーマはゲッと脱力した。


「何で俺だけそんなに…」

「君が作ったものじゃないと、食べそうにない人も中には居るようですからねぇ…」

「…はぁ?」


伴田の視線は、もっぱら跡部、不二、観月などの上級家庭の…しかも我侭な男に向けられていた。

リョーマもその視線に気付きはしたものの、何故自分のだと食べるのかが理解出来なかった。


「リョーマ、はよ荷物置きに行こうや。練習に遅れてまうで」


リョーマの肩を抱く忍足に、不二と観月がその手を同時に叩き落とした。


「痛いやん!何すんねん!」

「「その汚らわしい手で、僕のリョーマ君(越前君)に触らないで(下さい)!」」


恐いメンバーが揃ったとも言える1グループ。

しかし、不二と観月は案外相性が良いのかもしれない。


「ほら、行こう?リョーマ君」

「はぐれたりしないように、手を繋ぎましょうか」


右手を不二、左手を観月と手を繋ぐリョーマ。

やれやれ…とばかりに溜め息を吐いた。


「あ!待ってーな、リョーマ!」

「「君(貴方)は来なくていいよ(いいですよ)」」


やはり恐いのはこの二人なのだろう…とリョーマは思った。

そして、初日から凄いグループに当たったとも思った。


「何かよく分かんないけど…頑張って、忍足さん」

「…あぁ、任しとき〜…」


お互い、違う不安が残る者同士の友情(?)を結んで、部屋へと向かった。

今日から一週間過ごす合宿の幕開けと共に…。